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T's Barコンセプトアンプ「Bourbon」を製作したのは昨年の10月でした。以来約4ヶ月経過した300B PPアンプはエージングも進み絶好調、ますます艶っぽさを増した感があります。特に余韻の美しさと静寂感はパーマロイコアの"真骨頂"と言うところでしょうか。
「タムラ・トランス開発の歴史」
ここで長い歴史が刻まれて今日あるタムラ・トランスについて少し触れておきます。初めて『音質に十分配慮された出力トランスの開発』は1935年(昭和10年)、P25型低周波トランスであると聞いています。これ以前のものはいわゆるインピーダンス変換器としての変成器だったのでしょうか。このP25型トランスを契機に様々な改良と開発が進められ、1956年にはあの有名な「F三桁シリーズ」出力トランスが我ら真空管オーディオファンの前に現れたのです。と言っても52年も前の話、私がこのトランスの存在を知ったのは、発売後10年以上も経過した後のことでしょうか。
次に現れたのは、1973年(昭和48年)低損失0.25dBを誇る、主に直熱三極管をターゲットに開発されたF-2000シリーズ、このころはアマチュアによる真空管アンプ作り全盛期の時代です。引き続き1976年には、あの巨大なPP100Wに対応する「ビルトライト」F-2010の開発がなされ、以来そのノウハウは今日まで引き継がれ今なお高い評価を維持し続けているという、真空管アンプ自作マニアにとりましては誠にありがたくそして頼もしい存在であります。
ここで開発が止まらなかったのが凄いところ、1992年には非晶質磁気材料・アモルファスに着目、出力トランスF-5000シリーズが開発され、その5年後の1997年には大振幅を扱う出力トランスにはあまり適さないと言われていた、パーマロイコアを使用したF-7000シリーズが発表されたのであります。
ディジタル時代の中にあって、今日なお真空管オーディオに取り組む情熱、そして我ら自作マニアへのサポート、大いに賞賛しつつ今後のさらなる発展を期待しているのは私だけではないはずであります。とりわけアモルファスコアF-5000シリーズ、パーマロイコアのF-7000シリーズの出力トランスは、今やカレントモデルとしては唯一無二の存在、今後も良い音を追及するマニアの期待に応えていただけるよう念じております。
「Bourbonの特性」
今回のテーマは「Bourbonの製作と特性」、中々このテーマに入れず困ったものです。で、先にBourbonの特性図をここに掲載しましたのでご覧下さい。各特性の詳細は次回以降に譲ることになりますが、ここではBourbonの周波数特性と入出力特性、それとひずみ率特性をご覧いただけます。
「パーマロイコア」
Bourbonのハイライトは何と言ってもパーマロイコアを使用した出力トランスF-7020にあります。7〜8年ほど前にはパーマロイコアを使用した出力トランスは数社から商品化されていました。オーディオ誌で盛んに「わが社のXXXが一番!」、と音質の良さをアピールしていたのは記憶に新しいところです。しかし、どうしたのでしょうか最近ではサッパリ見かけません。それどころかタムラF-7000シリーズを残して他社はことごとく撤退です。
そこで少し退屈かもしれませんが、パーマロイコアとアモルファスコアについて改めてその特徴をご紹介してみたいと思います。
(以下はMJ 1997年2月号・MJテクニカルレポートより抜粋、図含む)
下記に示したカーブは「B-Hカーブ」または「ヒステリシスカーブ」と呼んでいます。コイルに電流を流すと磁界(H)が発生します。この時鉄心内には磁束が発生し、この磁束の密度をBで表し、磁界(H)と磁束密度(B)の関係を示したのがB-Hカーブ(ヒステリシスカーブ)と呼ばれています。
磁界を徐々に増加させますと磁束密度も増加し、やがて鉄心が磁気飽和状態となり、同時に磁束密度が頭打ちになります。この飽和領域に達した磁束密度を「飽和磁束密度」と呼びます。
鉄心を飽和させた状態から徐々に磁界を下げてゆくと、今度は鉄心の着磁により磁界がゼロになっても磁束密度は残ってしまいます。これを「残留磁束密度」と呼び、図のBrで表されます。この着磁をキャンセルするために必要な逆磁界を「保磁力」と呼び、図ではHcで表されています。
Hcの大きな磁性体は着磁力が強いわけで、永久磁石とか磁気テープの磁性粉のように、着磁を積極的に利用する用途に用いられます。これとは逆にトランスにはHcの小さな磁性材料を用いることになります。今流に言うならば横に太い"メタボ型"はトランスには適さない磁性材料ということになります。
管球アンプの出力トランスに適したコア材は大きく分類すると、珪素鋼板と呼ばれるSi-Fe(珪素鉄)合金、パーマロイと呼ばれるNi-Fe(ニッケル鉄)合金、そして、結晶を持たない非結晶金属を用いたアモルファス合金の3つに大別されます。
一般的に最も広く用いられているのが珪素鋼板ですが、これもいくつかに分類され、普及品にはハイライトコアと呼ばれる無方向性珪素鋼板、高級品と言われるトランスには、オリエントコアと呼ばれる特定方向の磁気特性を改善した方向性珪素鋼板が使用されます。
パーマロイコアは鉄とニッケルの合金で作られます。ニッケルの含有量を変えることで多用途に適したコア材とすることができます。例えば、小信号を扱う入力トランスと大きな振幅を扱う出力トランスとでは、ニッケルの含有量は異なります。ニッケルの含有量は緻密に検討され、各用途に最適な磁気特性が得られるコア材が作られます。
ニッケルの含有量は多ければ特性が良くなるとばかりは言えません。ニッケルの含有量を多くすると透磁率は高くなる反面、飽和磁束密度が低くなって磁気飽和が起きやすくなります。しかしこの場合は小信号用の入力トランスなどのコア材に適します。ニッケル含有率が少なければただの珪素鋼板というわけで、このあたりの兼ね合いが企業ノウハウとなります。F-7000シリーズのニッケル含有率は約38%のパーマロイコアが使われています。
これは良く知られていることですが、パーマロイは熱処理(アニール処理とも言う)によってそれぞれの磁気特性が得られます。逆に言うとパーマロイは熱処理工程次第ともいえる厄介な素材、この部分にトランスメーカの"企業秘密"が潜んでいるという、これまた厄介な素材なのであります。
パーマロイは機械的な応力で磁気特性が劣化してしまいます。コアの製造工程ではプレスで打ち抜く際に強い機械的ストレスが加わり、この工程で磁気特性が大きく劣化してしまいますので、コア打ち抜き後にこれまた"企業秘密"で確立したアニール処理を行うことで磁気特性に優れたコアが完成します。トランスの製造・組立工程でも、更には輸送途中そしてユーザーサイドでの取り扱い、それぞれのプロセスでの機械的ストレスは禁物です。優しく扱いましょう。
「アモルファスコア」
金属は、自然の状態では原子が規則正しく並んだ結晶となっていますが、溶解状態から「1秒あたり100万度」という、ちょっと想像できない超高速で急令処理を行うと、原子が液状時のランダム配置のまま固体化して、非結晶の金属となります。この処理で非結晶化した合金がアモルファス合金と言います。同じ組成でも結晶と非結晶では、磁気的にも機械的にも性質が大きく異なる合金となります。
オーディオ用トランスに使用されるアモルファスには"鉄ニッケル系"と呼ばれるFe-Ni系アモルファス合金と、"鉄コバルト系"と呼ばれるFe-Co系アモルファス合金があります。
近年、ケーブルとか真空管あるいはピンジャック、その他・・・、各種パーツに「"クライオ処理"を施して音質改善」なる活字を目にしますがこれも熱処理で金属の非結晶化あるいは物理特性の変化を狙った商品なのでしょう。しかし、ただ暖めて液体窒素に投げ込めばOKなどという安易なものではないことは容易に想像できます。(注:クライオとは「低温」を意味する述語)
ここで珪素鋼板(オリエントコア)、パーマロイ、アモルファス、3種のひずみ率特性が示されているデータがありましたので下記にご紹介します。測定の条件と測定法は定かではありませんが、このデータはパワーアンプ実装での比較データではなく、コア材単体でのひずみ率測定データです。
このデータを見ますと、アモルファスが"凄い"低ひずみ率特性を示しています。磁束密度の増加によるリニアリティーはオリエントコアとほぼ変わらず、小信号領域でのひずみ率は"測定限界"以下、磁性材料としてアモルファスの優秀性が示されています。これは非結晶であるアモルファスは、原理的に「バルクハウゼン・ノイズ」なるものが発生しないため、低ひずみ率特性を示すとのことです。
パーマロイコアは素材としては磁束密度に対するリニアリティーはあまり良くありません。しかしここがトランスメーカーとしての腕の見せ所になる部分です。磁束密度の増加とはすなわち大きな振幅でひずみが増加する。これがよく言われる「パーマロイコアの出力トランスは、低域のリニアリティーが悪い!」というわけです。
しかしそれは素材の単純比較ではそのとおりですが、珪素鋼板トランスと比べたコア単体での弱点を補うためには、コアボリュームを大きくする、あるいは巻き線の工夫など様々なノウハウをつぎ込んで出力トランスは作られています。その結果アモルファスあるいはパーマロイの持つ優秀な特性を生かしつつ、弱点をクリアーした出力トランスとして製品化されるわけです。
コア材の単価はハイライトコアに対して、オリエントコアは約2倍、ニッケル30〜50%含有パーマロイが20〜30倍、70〜80%含有パーマロイは70〜80倍、
アモルファスも70〜80倍、というコア材の単価になるそうです。珪素鋼板系のコアに比べコア材自体が高い上、コアボリュームも増しますので益々高くなってしまう、ユーザーにとりましてはあまりありがたくないお話しですけど、しかし、それに見合ったリターンが得られるのも、パーマロイコアでありアモルファスコア・トランスなのでしょう。
「Bourbonのシャーシ部品配置」
お話しをBourbonの製作に戻します。しかしページ数も押し詰まってまいりました。詳細は次回送りとさせていただきますが、シャーシ上の部品配置とシャーシ図面を掲載いたしました。画面上では見にくいかも知れませんが参考にしてください。前回ご紹介しましたデザインスケッチも合わせてご覧下さい。
かつてのシャーシ自作スタイルは、方眼紙上に部品の型紙を並べて配置を決めてゆくのが主流でした。しかしパソコンが普及した現在では少し"時代遅れ"の感も否めません。パソコンをお使いの方は是非トライしてみてください。
掲載した図はCADソフトでデザインスケッチからシャーシ図面まで一貫して描いてしまいますが、ドローソフトでも慣れればかなり使えると思います。以前私が書いた回路図を見た方から「回路図を書きたいのですが、回路図用のアプリケーションソフトを教えてください」との質問を頂いたことがあります。回路図作成ソフトがないわけではありませんが、基本的には直線と円、それと文字が描ければ回路図は描けてしまうのです。ワープロソフトでもエクセルでも効率的ではありませんが回路図を描くことは可能です。もちろんドローソフトの方が効率的に描けます。
スケッチとかシャーシ上の部品配置までであれば、やはり直線と円、それと位置関係がわかるソフト、この場合はドローソフトが良いと思いますがパソコン上で描くことはそう難しくはありません。ただ一つ言えることは「開けゴマ!」と命令するだけでは何も画面には現れません。ソフトにはたくさんの機能が盛り込まれています。その機能を使って効率的に作図をするには、残念ながらソフトに慣れるしかないのです。
「シャーシの加工」
Bourbonのシャーシは板金メーカーで製作してもらいますのでシャーシ図面を作らなければなりません。この場合はCADソフトを使いますが、手作りで穴加工をする場合はシャーシ図面の必要はありません。部品配置図をプリントアウトして、その紙をシャーシに貼り付けて穴あけすることも可能です。したがって画面上では原寸(1:1)で描きます。出力用紙はA3プリンターがあると1枚で大概OKなのですが、A4の場合は少々面倒ですが何枚かに分けて出力し、それをシャーシに貼り付けることでも穴あけはできるでしょう。
シャーシに図面を貼り付ける糊は「ヤマト糊」でOKです。貼り付けた図面は傷防止も兼ねますので一石二鳥です。穴あけは電気ドリルですとかボール盤で開けますが、その際切削オイルをまめに使ってください。油だらけになりますが刃物へのダメージも少ないですし、端面がピカピカに仕上がります。穴あけ終了後水に浸し貼り付けた紙をはがし、その後中性洗剤でオイルを洗い流せばサッパリ、綺麗な穴開きシャーシが完成します。
今回は最近目にする機会がなくなってしまったトランス素材のご紹介に多くのページを割いてしまいました。アモルファスにしてもパーマロイにしても、音が劇的に変わるなどということはあり得ませんが、しかし素材のデータが示すとおり、ひずみ感が少ない清楚な音、そして静寂感・余韻といった静けさ、さわやかさ、このあたりは珪素鋼板トランスと明らかな差があります。Bourbonの音を聴いていると、機会があればまた使って見たくなる"魔力"みたいなものを感じてしまうトランスです。
次回は回路の中身について触れる予定です。T's Barへの書き込み歓迎です。ワイワイ・ガヤガヤやりましょう。
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